高タンパク質食は本当に腎臓を破壊するのか?ー糸球体過剰ろ過とBrenner仮説の真実ー

~アンチエイジング研究所マガジンVol.106~
やまだ 2025.12.15
誰でも

はじめに

みなさん、こんにちは、やまだです。普段は、Xにて、アンチエイジングや腸活について発信をしています。

おかげさまでこのメンバーシップの記事もVol.106まで到達しました。いつも読んでいただきありがとうございます。

さて、今回は「プロテインや高タンパク食は腎臓に悪いのか?」という、筋トレ界隈や健康オタク界隈で永遠に議論されているテーマに決着をつけたいと思います。

「プロテインを飲むと腎臓が壊れるよ」 「タンパク質のとりすぎは内臓に負担をかける」

こんな言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?一方で、トレーニーたちは体重の2倍、3倍ものタンパク質を摂取していますが、彼らがバタバタと透析室に運ばれているという話も聞きません。

果たして、高タンパク質は毒なのか、薬なのか。 今回は、巷にあふれる「イメージ」ではなく、生理学的なメカニズムと臨床エビデンスに基づいて、この問題を徹底解剖します。

結論を先に言っておくと、

「腎機能が正常な人にとっては、高タンパク=即座に有害とは言えないが、メカニズム的には確かに腎臓は『激務』を強いられている」

という、非常に興味深いグレーゾーンが見えてきます 。では、さっそく深淵なる腎臓の世界へ潜っていきましょう。

1. そもそもなぜ「タンパク質は腎臓に悪い」と言われるのか

世間のイメージと医療現場のギャップ

まず、なぜここまで「タンパク質=腎臓に悪い」という説が定着しているのでしょうか。最大の理由は、「腎臓病(CKD)の患者さんに対する食事療法」の存在です。 実際に、すでに腎機能が低下している患者さんに対しては、医師は「タンパク質を控えましょう(タンパク制限)」という指導を行います 。これは、タンパク質を減らすことで、透析への進行リスクや腎機能の悪化速度がわずかに遅くなることが、多くの臨床試験で証明されているからです 。

CKD診療ガイドライン2024

CKD診療ガイドライン2024

ここから、「腎臓が悪い人に良くないなら、健康な人にとっても腎臓を傷める原因になるに違いない」という一般化(推論)が生まれました 。

しかし、これは「骨折している人は走ってはいけない」という事実から、「健康な人も走ると足が折れるから歩くべきだ」と主張するような飛躍を含んでいる可能性があります。

この記事で答えたい問い

今回私たちがクリアにすべき問いは以下の2点です。

  • 健康な腎臓において、高タンパク質食はどのような生理的変化(負担)を引き起こすのか?

  • その「負担」は、将来的な腎機能低下(CKD)に直結するのか?

まずは、そもそも食べたタンパク質が体内でどう処理され、なぜ腎臓の仕事になるのか、その「流れ」から整理しましょう。

2. タンパク質は体内でどう処理されるか

タンパク質が「腎臓の負担」になる理由を知るには、その代謝経路を理解する必要があります。よく誤解されがちな「アンモニア」の行方についてもここでクリアにしておきましょう。

1. 消化吸収(腸)

食事から摂取したタンパク質は、胃や腸で消化され、最小単位であるアミノ酸に分解されて吸収されます 。

タンパク質からアミノ酸への分解

タンパク質からアミノ酸への分解

2. 肝臓での役割(解毒の砦)

吸収されたアミノ酸は肝臓へ運ばれます。体に必要なタンパク質の合成に使われますが、余ったアミノ酸は分解(脱アミノ)されます。この時、有害な「アンモニア」が発生します。

アミノ酸の処理でアンモニアが生じるがすぐに無毒な尿素になる

アミノ酸の処理でアンモニアが生じるがすぐに無毒な尿素になる

ここが重要なポイントですが、アンモニアを無毒な「尿素」に変換するのは、主に肝臓の仕事(尿素回路)です 。

尿素回路 

尿素回路 

つまり、「タンパク質のとりすぎでアンモニアが出て腎臓がやられる」というイメージを持っている人がいますが、アンモニアそのものの解毒という観点では、負担がかかっているのはまず肝臓です。

3. 腎臓での役割(排泄と調整)

では腎臓は何をしているかというと、肝臓で作られた「尿素」を血液からろ過して、おしっこ(尿)として捨てる仕事をしています 。 また、肉や魚などの動物性タンパク質は分解されると酸(硫酸など)を生じ、体が酸性に傾きます。腎臓は、この酸を排泄して体のpHバランスを保つという極めて重要な役割も担っています 。

【やまだの整理】肝臓の負担:有毒なアンモニアを尿素に変える腎臓の負担:増えた尿素を捨てる(ろ過量の増加)、酸を捨ててバランスを取る

このように、腎臓は「ゴミ捨て」と「バランス調整」のために働かされるわけです。

3. タンパク質をとると腎臓で何が起きるか

では、高タンパク質食(プロテインがぶ飲みや肉三昧)を続けたとき、腎臓の内部では具体的にどのような現象が起きているのでしょうか。ここが今回の科学的なハイライトです。

急性の変化:糸球体過剰ろ過(ハイパーフィルトレーション)

高タンパクな食事をとると、数時間のレベルで腎臓の血流量と、ろ過の量(GFR)が20〜60%も上昇することが古くから知られています 。これを糸球体過剰ろ過(ハイパーフィルトレーション)と呼びます 。

ハイパーフィルトレーション

ハイパーフィルトレーション

なぜこんなことが起きるのでしょうか?メカニズムは以下の通りです。

  • アミノ酸の流入:タンパク質をとると血中のアミノ酸濃度が上がります。

  • Naの再吸収:腎臓の入り口(近位尿細管)で、アミノ酸と一緒にナトリウム(Na)もどんどん再吸収されます 。

  • マクラデンサの誤検知:その奥にあるセンサー細胞(マクラデンサ)に届くNaが減るため、腎臓は「おっと、ろ過が足りてないぞ(血流不足か?)」と勘違いします 。

  • 血管の拡張:ろ過量を増やすために、糸球体へ入る血管(輸入細動脈)をガバッと広げます 。

結果として、糸球体(ろ過装置)にかかる内圧が上昇し、無理やりろ過量を増やして仕事をさばく状態になります 。これが「過剰ろ過」の正体です。 これは本来、一時的に負荷が増えたときに対応するための「予備能」なのですが、常にエンジン全開の状態とも言えます 。

慢性的な変化の仮説:Brenner仮説

この「過剰ろ過」がずっと続くとどうなるのか? これに対して、1980年代にBrenner博士らが提唱した有名な説があります。

Brenner博士

Brenner博士

【Brenner仮説】
 ネフロン(腎臓のろ過単位)が減った状態で高タンパクを続けると、残ったネフロンの血圧(糸球体内圧)が慢性的に高くなる。その機械的なストレスでフィルター(基底膜やポドサイト)が傷つき、最終的には糸球体が硬化して機能しなくなる。

つまり、「働きすぎた腎臓は、過労で潰れる」という説です。 これが、高タンパク質が腎臓に悪いと言われる最大の理論的根拠です 。

もう一つの負担:酸負荷とアンモニア産生

さらに、腎臓には「酸の処理」という負担もかかります。 動物性タンパク質(肉、卵、チーズなど)は、代謝されると酸(H+)を多く生み出します 。 腎臓はこの酸を捨てるために、自らアンモニアを作り出し、それに酸をくっつけて(NH4+として)尿に捨てます 。

腎臓におけるアンモニア代謝

腎臓におけるアンモニア代謝

「あれ?さっきアンモニアは肝臓って言わなかった?」と思った方、鋭いです。 実は、腎臓は酸を捨てるために、あえて自分のところでアンモニアを作っているのです 。

しかし、高タンパク食で酸の処理が限界を超えて続くと、この腎臓内でのアンモニア産生が過剰になり、その過程で補体が活性化したり炎症が起きたりして、腎臓の組織(尿細管間質)がダメージを受ける可能性が指摘されています 。

4. 「高タンパクで腎臓がやられる」の根拠として使われてきたエビデンス

ここまで見てきたメカニズム(過剰ろ過、Brenner仮説、酸負荷)は、理論としては非常に筋が通っています。では、実際に「ヒト」で腎臓が壊れるという証拠はあるのでしょうか? 「高タンパク=悪」の根拠としてよく引用されるエビデンスを見てみましょう。

動物実験での高タンパク食

まず、ラットなどの動物実験では、高タンパク食の有害性はかなり明確に出ています。 特に、腎臓の一部を切除して機能を落としたラットに高タンパク食を与えると、糸球体内圧が上がり、糸球体硬化が急速に進み、蛋白尿が悪化することが示されています 。

これはBrenner仮説を強く支持するデータです。しかし、人間とラットでは寿命も代謝も異なります。

CKD患者での低タンパク食試験

人間でのデータとして最も強力なのは、やはりCKD(慢性腎臓病)患者を対象とした研究です。 有名なMDRD研究などの大規模な臨床試験やメタ解析において、腎機能がすでに低下している患者がタンパク質摂取を制限(0.6〜0.8g/kg/日程度)すると、腎機能の悪化スピードが緩やかになることが示されています 。

これらの結果から、腎臓内科学のガイドラインでは「CKD患者にはタンパク制限を推奨する」というのがスタンダードになりました 。

そこから生まれた「一般化」

ここまでの話をまとめると、

  • メカニズム的には、高タンパクは腎臓を「過剰ろ過」という高圧状態にする。

  • 動物実験では、弱った腎臓に高タンパクを与えるとトドメを刺すことになる。

  • 腎臓病の患者では、タンパク質を減らすと腎臓が長持ちする。

これら3つが合わさることで、「タンパク質は腎臓に負担をかける物質であり、長期的には健康な人の腎臓も蝕むのではないか」という通俗的なメッセージが完成したわけです 。

しかし、ここで冷静になる必要があります。 「弱った腎臓にとっての毒」は、「健康な腎臓にとっても毒」なのでしょうか?

実は、最新の研究では、「腎機能が正常な人」においては全く異なる景色が見え始めています。

5. 実際の研究ではどうか(腎機能正常者とCKD患者を分ける)

前半で見た通り、「メカニズム的には腎臓に負担をかけている(過剰ろ過)」というのは事実です。しかし、それが実際に病気(CKD)につながるかどうかは全く別の話です。

ここでは、最も重要な「腎機能が正常な人」と「すでに腎機能が落ちている人」を明確に分けて、最新のエビデンスを見ていきましょう。ここを混同するから話がややこしくなるわけです。

① 腎機能が正常な人:過剰ろ過は起きるが、壊れはしない?

結論から言うと、腎臓が健康な人において、高タンパク食が腎機能を悪化させるという強力な証拠は現時点ではありません 。

  • 短期〜中期の介入試験 数週間〜1年程度の期間、体重あたり1.6〜2.2 g/kg/日といった高タンパク食を摂取してもらう試験がいくつも行われています。 結果はどうだったかというと、確かにGFR(ろ過量)は上がり(過剰ろ過)、BUN(尿素窒素)も上がりますが、尿アルブミン(腎障害のサイン)や腎機能の低下は認められませんでした 。 つまり、腎臓は「忙しく働いている」けれど「悲鳴は上げていない」状態と言えます。

短期〜中期の介入試験のまとめ

短期〜中期の介入試験のまとめ

  • 長期のコホート研究 では、何十年も続けたらどうなるのか?これについては観察研究を見るしかありません。 驚くべきことに、一般集団を対象としたメタ解析や日本の大規模コホート研究では、「タンパク質摂取量が多いほど、むしろCKD発症リスクが低い(または変わらない)」という報告が多いのです 。例えば、日本人約3000人を12年間追跡した研究では、タンパク質摂取比率が高い群の方が、CKD発症リスクが0.72倍と低い傾向にありました 。

前向きコホート・CKD関連試験

前向きコホート・CKD関連試験

ただし、一つだけ注意点があります。それは「タンパク質の質」です。
総タンパク量が多くても問題ないとする研究が多い一方で、「赤身肉や加工肉」に偏った食べ方をしている場合は、CKDリスクの上昇と関連するという報告が散見されます 。
「肉だけでタンパク質を稼ぐ」のは、やはりリスクがあるかもしれません。

② すでに腎機能が落ちている人:やはり制限が必要

一方で、すでに腎臓病(CKD)のステージにある人や、腎機能が軽度に低下している人の場合は話がガラリと変わります。

  • 進行を早めるリスク Nurses’ Health Studyなどの解析では、腎機能が正常な女性では高タンパクでも問題ありませんでしたが、「軽度の腎機能低下がある女性」では、動物性タンパク質を多くとるほど腎機能の低下が加速していました 。

  • タンパク制限の効果 CKD患者さんを対象としたメタ解析では、タンパク質を0.6〜0.8 g/kg/日に制限することで、腎不全への進行リスクやGFRの低下速度を抑制できることが支持されています 。

つまり、「腎臓というフィルターがすでに傷んでいる場合、高圧洗浄(高タンパクによる過剰ろ過)をかけると網目が広がって壊れてしまう」というイメージです。ここでは明確に「量」が毒になります。

6. どんな人がどの程度タンパク質に気を付けるべきか

エビデンスの全体像が見えたところで僕たち(主に健康を意識する一般層)は具体的にどうすればいいのか、実務的な目安を整理します 。

A. 腎機能が正常で、リスク因子が少ない人

健康診断でeGFRが60以上あり、尿タンパクも陰性、特に持病もない方です。

  • 安全圏の目安:体重1kgあたり 1.6 g/日くらいまで 多くの介入試験で、このレベル(〜1.6 g/kg/日)までは1年程度続けても腎機能悪化のサインが出ていません 。 一般的な推奨量(0.8〜1.0 g/kg)の約2倍ですが、ここまでは「おおよそ安全」とみなして良いでしょう 。

  • チャレンジ圏:体重1kgあたり 2.0 g/日以上 ボディビルなどで2.2 g/kgなどを摂取する層もいますが、このレベルを「何十年も続けた場合」の安全性データは正直不足しています 。 2 g/kgを超える量を常食する場合は、自己判断ではなく、定期的に採血検査(eGFR、BUN、クレアチニン)と尿検査を受けて、数値が悪化していないかモニタリングしながら行うべきです 。

B. 注意が必要な人

以下のいずれかに当てはまる場合は、「高タンパク食」は推奨されません。主治医や栄養士の指示に従ってください 。

  • すでにeGFRが低下している(60未満など)、または尿タンパクが出ている

  • 糖尿病、高血圧がある(腎臓のリスクファクターです)

  • CKDの家族歴がある、または腎臓が片方しかないなど

この層では、良かれと思ったプロテインが寿命を縮める(透析を早める)可能性があります。「自分は健康な側か、リスクがある側か」を知ることが何より重要です。

C. 「量」だけでなく「質」で分散する

健康な人でも、腎臓への酸負荷(アシドーシス負荷)を減らすために、タンパク源は分散させましょう 。

  • NGパターン:毎日ステーキ、加工肉(ハム・ソーセージ)、プロテインのみ

  • 推奨パターン:魚、卵、大豆製品(納豆・豆腐)、乳製品を組み合わせる

  • 野菜・果物をセットで:野菜や果物はアルカリ性食品として働き、動物性タンパク質の酸負荷を中和して腎臓の負担を和らげてくれます 。

7. アンチエイジングの観点からのまとめ

最後に、アンチエイジング研究所としての結論です。

僕たちにとって最大のリスクの一つは「フレイル(虚弱)」と「サルコペニア(筋肉減少)」です。 筋肉を維持し、代謝を回し、若々しくいるためには、十分なタンパク質摂取が絶対に必要です。「腎臓に悪いかも…」と過剰に恐れて、健康な若者や中高年がタンパク質を減らしすぎることは、むしろ筋肉を失い、老化を早めることになりかねません 。CKD患者向けの制限食を、健康な人が真似する必要はないです。

本日のまとめ

  • 腎機能が正常なら恐れるな 体重あたり1.6g程度までの高タンパク食なら、腎臓は多少忙しくなる(過剰ろ過)ものの、それが原因で将来透析になるという明確な証拠はない。

  • 自分の「腎臓の持ち点」を知ろう ただし、すでに腎機能が落ちている人にとっては、高タンパクは明確にリスクとなる 。健康診断の結果(eGFRと尿検査)を必ず確認し、自分が「ガンガンいっていいゾーン」にいるのか確認しよう。

  • 肉食一辺倒は卒業しよう 腎臓への優しさを考えるなら、赤身肉ばかりでなく、魚や大豆、そして酸を中和する野菜もしっかり食べよう 。

8.おわりに

結局のところ、「プロテインは腎臓に悪いか?」という問いへの答えは、 「あなたの腎臓が元気ならNO(悪くない)。あなたの腎臓が弱っているならYES(悪い)。だからまずは検査表を見ろ」 ということになります。

自分の体の現状(ステータス)を知らずに、ネットの極端な健康法に飛びつくのが一番のリスクです。賢く食べて、賢く若返りましょう。

いかがでしたでしょうか。 「タンパク質と腎臓」という、ある意味アンタッチャブルな話題に切り込んでみましたが、モヤモヤしていた部分がスッキリ整理できたなら幸いです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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