魚油に科学的根拠はあるか？

魚油は、主にサバやイワシ、サーモンといった青魚に豊富に含まれる油です2。特に、DHA（ドコサヘキサエン酸）とEPA（エイコサペンタエン酸）という2種類の必須脂肪酸が多く含まれており、“海洋性オメガ３脂肪酸”として知られています。

僕たちの体内には「サーカディアンリズム（概日リズム）」という24時間サイクルがあり、これは「体内時計」とも呼ばれます。脳の中枢である視交叉上核（SCN）が、日光や食事のタイミングを受けて「時計遺伝子」をON／OFFし、眠る時間・起きる時間を調整しています。

しかし、この体内時計のリズムが乱れると、様々な健康問題につながることが知られています。特に、2型糖尿病の患者さんは、実に4割以上が何らかの睡眠障害を抱えているといわれます。寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝すっきり起きられないといった睡眠トラブルは、血糖コントロールにも悪影響を及ぼし、日中のだるさや集中力低下を招きます。糖尿病になると、この時計遺伝子の働きに乱れが生じ、寝る時間と覚醒時間のリズムがぼやけてしまうと考えられています。

近年、魚油に含まれるDHAやEPAが、この体内時計の働きをサポートする可能性が注目されています。これらの成分が、乱れがちな「からだのリズム」を整えるのに役立つのではないかと考えられています。

科学が示す魚油の効果

いくつかの研究により、魚油の体内時計や睡眠への様々な効果が示唆されています。

•どんな研究をしたの？

大規模観察研究（英国バイオバンク）：約2万7千人の糖尿病患者さんにアンケートを取り、「魚油サプリを日常的に使っている人」と睡眠状態との関連を解析しました。

ランダム化比較試験（RCT）：実際に魚油サプリの摂取グループとプラセボ（偽薬）グループに分け、14か月間フォローしました。睡眠の質を示す国際基準（PSQI）や血液中のマーカーを調べました。

細胞レベルの実験：脳の「リズム細胞」を使い、DHA/EPAが時計遺伝子の働きをどのように調整するかを詳しく調べました。

•研究でわかったこと

観察研究では、魚油ユーザーのほうが「睡眠の質」が高く、朝までぐっすり眠れる人が多い傾向が見られました。

RCTでは、魚油を飲んだグループでPSQIスコアが改善しました。特に高用量のグループでは、時計遺伝子（Clock・Bmal1・Per2）の活動が高まり、ストレスホルモン（コルチゾール）の低下も確認されました。

ピッツバーグ睡眠質問票（pittsburgh sleep quality index：PSQI）とは、睡眠障害の程度を評価するためのスケールです。睡眠障害の重症度を評価するためのスケールはさまざまありますが、中でもPSQIは多くのエビデンスが集積されており、信頼性や妥当性が高く、世界的に広く用いられています。

https://knowledge.nurse-senka.jp/500560

細胞実験では、DHA/EPAが時計遺伝子を直接再調整し、「からだのリズム」を強くするしくみが解明されつつあります。

魚油の恩恵を受けるために、まずは以下のようなシンプルなことから始めてみましょう。

•まずは食事から：週に2～3回、サバやイワシ、サーモンなど青魚を積極的に食卓に取り入れましょう。

•サプリメントは“補助”：食事で足りない分を補うイメージで利用しましょう。

•生活リズムの見直しも大切：朝日を浴びる、夜はスマホを控える、寝る前の軽いストレッチなど、シンプルな習慣が“体内時計”を整えることにつながります。

魚油サプリメントを利用する場合、それはあくまで食事からの摂取を補うための「補助」であるという点を理解しておくことが重要です。また、特定の疾患をお持ちの方や、他の薬を服用している方は、医師や薬剤師に相談のうえ、正しい用量を守るようにしましょう。

いかがだったでしょうか。糖尿病の睡眠トラブルは、血糖管理の努力を裏切ることもあります。しかし、青魚や魚油サプリによる“海のリズム”サポートと、規則正しい生活習慣を組み合わせることで、眠りの質を向上させるヒントが見えてきました。魚油（DHA・EPA）は、体内時計の調整をサポートし、特に糖尿病患者さんにおける睡眠の質の改善に役立つ可能性が、科学的研究によって示唆されています。まずは食卓に魚を増やし、夜の過ごし方を少し工夫してみませんか？ここまで読んでいただきありがとうございました！